好物

実家にいたとき。冷凍庫に箱アイスが入っているととりあえず食べる。例えば昼に食べたとしたら、夕方にもう1本食べる。そして、風呂上がりに1本食べる。1日で私だけで3本食べる。だから、母親に「あんたはあったら、あっただけ食べる!」と怒られていた。味付けのりもよく食べる。よく、円筒形の容器に入った海苔が家にあった。1回に多くても2枚。それをちょこちょこ繰り返す。海苔に関しては母親は何も言わなかったが、あっという間に家にある海苔を食べ尽くした。イナゴとかバッタみたいな感じで、私が台所に姿を表すと、何かしらが想定外のはやさでなくなっていく。

大学生になって、実家を出て一人暮らしをするようになってたら、バイド代で好きなものを好きな分だけ買って食べた。そうして始めた母親の気持ちがわかった。アイスにしても海苔にしても、金を払わないと手に入らないもので、そして、学生のバイト代から捻出するには結構高い。うちも決して裕福な家庭ではなかったから、そんな中で、1日1本食べれば1週間は持つであろうアイスを、1月くらいは夕飯のお供になるであろう味付け海苔を想定外のスピードで食い尽くされたらたまったものではない。自分でバイトをして初めてお金を稼いでわかった。

学生時代に食べたい欲を抑えた生活を手に入れたのに、社会人になって、手に入る金が増えるとまた元に戻った。味付け海苔よりももうちょっと高い韓国のりに手を出して、5枚入り×6パックを1日で食べ切るようになった。翌日また買い直して、また食べて、また買い直して、そして食べる切る。あまりにも食べすぎてちょっと嫌いになるくらいのペースで手を出した。海苔とかは別にいいが、アイスやお菓子もバカバカ食べるので健康面に影響が出だした。

30歳を過ぎたくらいから、あればあるだけ食べるのも健康面の問題からやめた。なのに、いまだに妻に味付け海苔を隠される。夕飯に味付け海苔が出てきた。翌日の昼、白いご飯と明太子、味付け海苔を食べようと思った。でも、味付け海苔が見当たらない。探してもない。夜、仕事から帰ってきた妻に「海苔ってどこにあるの?」と聞いた。そうしたら、「あったらあるだけ食べるから隠してる」と言われた。なんで2度しかあったことなくて、触りだけどかるいコミニュケーションしか取ったことのない母親と同じセリフを言うのか。そして、もうそんな食べ方していないのになんで今更「隠す」なんていう行動をとるんだ。ちょっと傷つくぞ。もうやってないのに、やってるって言われて。母親と妻が違うのは、母親は怒るが物はそのまま。怒らない代わりに物を隠すということ。これはそれでも子供が食べたいものを食べさせてやろうという母の愛情と、健康を気遣ってくれている妻の愛情。その違いなのかもしれない。

とりあえず、孫悟空がどこまで行ってもお釈迦様の手のひらの上から逃れられなかったように、母親の「あんたはあったらあっただけ食べる」の呪縛からは逃れられない。

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