桃のはなし

この寒い時期に季節はずれの桃のはなし。

好きな果物はと聞かれたら、桃と答える。
嫌いな果物はと聞かれても、桃と答える。

さて。

北京オリンピック前年の夏に仕事で上海に行った。中華料理をおきまりのスタートとし、今日は雑技団、今日はカラオケと寝る暇を惜しんで仕事に励んだ。連日のオーバワークで疲れが溜まった頃にマッサージに連れて行ってもらった。上海のとあるビルの中にその店はある。店内は暗く、中国らしく「ペンぺぺペン」と琴のような音色が聞こえる。日本のラーメン屋で聞こえてくるような大正琴で奏でるカーペンダーズとは全く違う。非常に中国らし音楽だ。一人個室に案内されて、ゆったりとしたソファに座る。そこに運ばれてきたのがお茶と「桃」だった。よく冷えて、みずみずしく柔らかい桃だった。中国で桃を食べるというシュチュエーションも加わってか、その桃が今までに食べた桃の中で一番美味しかった。

日本に帰ってきて桃を食べた。ある日、スーパに行って缶詰のコーナを通ると安く桃の缶詰を売っていた。缶詰のフルーツはあまり好きではない。普段なら食べることはないのだが、缶に書かれている「原産地 中国」という文字に上海で食べた桃の記憶が呼び起こされた。あの味が、再現されるはずはないのだが、その時はそこまで分からず、つい買ってしまった。家に帰って、一旦風呂に入る。汗をかいて体が水分を欲したところで缶詰と向かい合う。普通ならここで缶切りがなく、ひと騒動あるのだが、プルトップ式だったので難なく開けることができた。一切れ食べる。缶詰特有のシロップにひたひたに浸かった甘ったらしい味だ。とても食べられたものではなく一切れ食べただけで、もったいないが捨てた。

数時間後、お腹がジンジンと痛む。その後は腹痛おきまりのパターンでトイレと布団のシャトルラン。カブトムシの幼虫みたいに丸くなって痛みに耐える。病院へ行こうにも、運悪く保険証の期限切れ。仕事が忙しくて保険料の滞納があったため、新しい保険証はない。上海で散財したため、手持ちの金もない。完全に医療難民となる。病院にも行けないままに2日ほど丸くなって自力で治した。体調が悪い時に飲む薬というものがいかに効果があるかを体で知った。普段は「この薬は効かん」など文句を垂れている。モテる時の人間の驕りというのは、本当にいやらしいものだ。

そんな経験をしてからは、目の前で剥いてもらった桃は食べれる。いくらでも食べれる。しかし、缶詰の桃は食べれなくなった。少し中途半端だが、缶詰の桃が食べられないといっても、隠れたとこで缶詰から出して皿に持ってきたら多分食べれるだろう。好き嫌いの嫌いにしては、いい加減なものだ。

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